この「講座」は、@nifty「翻訳フォーラム・アドバンスメント館(FTRAN2)」の第13会議室「翻訳JOB応援会議室」にて連載されているものを、著作者の許可を得てウェブ上に転載したものです。

この「講座」内容に関連する質疑応答は、@nifty「翻訳フォーラム・アドバンスメント館(FTRAN2)」の第13会議室「翻訳JOB応援会議室」にて受け付けております。

講座内容についてのご質問がある方は、どうぞ、上記会議室においでください。

4.2 辞書や資料類

翻訳者たるもの、辞書や資料への出費を惜しんではいけません。とはいっても、投資効率は高くしたいもの。翻訳収入が多くなりにくい二足の草鞋はなおさらですよね。

お金をかけずに辞書や資料を参照するには... 公立図書館や会社の資料室などが使えればベストでしょう。

会社の資料室が充実している人は幸せです。どんどん使ってください。行き帰りに時間はかからないし、朝の始業前、昼休み、終業後、はたまた、仕事の調べ物に行ったついで、と効率よく調べ物ができます。

対して公立図書館は、なかなか使いにくいものです。通勤前や帰宅後には開いていないところが多いし、日曜日にはレファレンス類の部屋が閉まっている所もあります。一応は使える場合でも、行き帰りに往復20分もかかるなら... 何往復かする時間に翻訳を進めれば、辞書の1冊くらいは買えてしまいます。どの辞書がいいかを見比べるのにはいいかもしれませんが、月に1回も調べたいと思うような辞書は、買った方がいいと私は思います。

開架書庫が充実している図書館なら、新しい分野の仕事の入門書を借りてくる、というような使い方ができます。二足の草鞋は基本的に自分の専門に特化すべきだと思いますが、受けてみたら「あれっ?」ということもありますからね。そういうとき、どうせ1回、斜め読みするだけの本を買うのももったいないですし... その分野が継続的にくるなら買ってもいいんですが、なかなかそうでもなかったりしますからね。

辞書は、なるべく電子辞書を揃えましょう。CD-ROM辞書をノートパソコンのハードディスクに搭載すれば、出先でも辞書が使えます。しかも、紙の辞書よりも簡単に、素早く引けます。

いわゆる辞書だけでなく、最近は、百科事典や専門的な事典なども電子化が進んでいます。これが進めば、置き場所の問題や、引く手間暇、そして、引くときに辞書をおく場所の問題なんかもかなり解決されそうです。価格は紙よりも高めになるので、財布も軽くなってしまいそうですが...

★電子辞書の種類

大きく分けると、以下の3種類になります。

現時点のお薦めは、EPWING版です。

EPWING辞書は、DDWin(Windows用)や書見台(Mac用)などの優れた検索用フリーソフトがあります。このようなソフトを使うと、複数の辞書を一度に串刺し検索してくれます。簡単なマクロを書けば、ファンクションキーを押すだけで単語を取り込み、検索させることも可能になります。このようなマクロは、翻訳フォーラムなどでも紹介されることがありますから、自分でマクロを書けない人は、そういったマクロを活用すればいいでしょう。

また、EPWING規格の辞書は、訳語から見出し語を引くことができます。つまり、英和辞典を和英辞典としても使えるわけです。

上記のフリーソフトは電子ブック版にも対応していることが多いのですが、電子ブック版の場合、英和辞典を和英辞典として使いたい場合に、漢字では引けず、かなで引かなければならない、という欠点があります。日本語は同音異義語が多いですから、これはけっこう不便だと思われます。英英辞典などは、どうせアルファベットだけなので、電子ブック版で十分ですけどね。

EPWING辞書や電子ブック辞書のもう一ついい点は、その辞書用のフォルダを作って、辞書の内容を丸ごとフォルダにコピーするだけでハードディスクに搭載できることです。

独自規格辞書は、購入した電子辞書付属の検索ソフトで検索を行います。このようなソフトは、同じ会社が複数の辞書を出している場合でも、串刺し検索には対応していないことが多いようです。結局、一つの辞書を引いてみて、求める内容が見あたらなければ次の辞書を引いてみて... と手間暇がかかってしまいます。また、コンピューターリソースを大量に消費してしまうソフトなど、ノートパソコンには向かないソフトもあったりします。

独自規格の辞書は、不正コピー防止などの意味もあるのだと思いますが、基本的にCD-ROMがないと利用できないようになっています。このような辞書をノートパソコンで出先で運用したいならば、仮想CDソフトが必要になります。

同じ辞書を複数の会社が販売している場合や、この辞書とあの辞書、どっちにしようかと迷った場合、その中にEPWING辞書が入っていたら、EPWINGを選ぶことをお勧めします。同じ辞書がEPWINGと独自規格で売られている場合、EPWINGの方が高いことが多いのですが、使い勝手の面で十分にお釣りが来るだけの違いがあります。

★定番辞書

電子辞書の定番辞書と定番まではいかないけれど、あれば便利な辞書をいくつか紹介しておきます。

まずはEPWING版の出ているもの。

研究社
リーダーズ+プラス

最初の1冊はこれで決まりでしょう。ちょっと古いですが、ともかく語数が多い。リーダーズの紙版は大幅に増補改訂された第2版が出ていますが、現時点(1999年9月)では、CD-ROM版はまだ出ていません。なお、辞書としてはリーダーズよりもランダムハウスがいい、という意見も聞きますが、ランダムハウスは独自規格である上に検索ソフトの出来が悪いのが難点です。

日外アソシエーツ
ビジネス/技術実用英語大辞典

「ビジネス技術」とありますが、あらゆる分野の翻訳者にお薦めの辞書。自らが翻訳者である海野さんご夫婦が丹念に用例を集められた辞書で、こなれた日本語訳を作るためのヒントが満載されています。翻訳者から高い評価を受けた「最新 ビジネス・技術実用英語辞典 英和・和英」の事実上の増補改訂版です。

日外アソシエーツ
コンピューター用語辞典

技術・実務関係の翻訳の場合、どの分野でもコンピューターと無縁ではいられません。この辞書も、揃えておいて損はないと思います。

研究社
新編英和活用大辞典

自然な英語を書くために用例が豊富、というのがウリの辞典。日英の仕事が多いなら、上記ビジネス/技術実用英語大辞典だけでなく、こちらも準備しておきたいもの。

ここまでは1冊1万円〜1.5万円くらい(実売価格)です。次は、ちょっと高い(定価が約9万円)。

アルファベータ
IPC 130万語大辞典

技術・ビジネスなどの専門用語だけを大量に集めた辞書。使い方が少々難しい。一応、分野とどういうところから訳語を持ってきたかは付記されていますが、基本的に英語と日本語が対照されているだけなので、分野違いなどで見当違いの訳語を引っ張ってしまったりすることがあります。また、スペルなどに間違いが散見される、との指摘もあります。必須ではないが、あれば調べ物の端緒にはなるので便利、というところでしょうか。

岩波書店
広辞苑

国語辞典も、訳語や漢字に迷ったときに便利です。ただ、広辞苑電子辞書の最新版(第5版)はEPWINGの最新版が採用されており、Windowsで広く使われているDDWinでは検索できないのが難点です。

以上はすべてEPWING。次は電子ブックです。

Oxford
THE CONCISE OXFORD DICTIONARY AND OXFORD THESAURUS
(三修社 ISBN4-384-00413-3)

英英辞典とシソーラス。英語を書く場合に便利です。私のように米語中心の人間はアメリカ英語の辞書が欲しいんですが、残念ながらEPWINGまたは電子ブックでは適当な辞書・シソーラスを見つけられていません。綴りが違ったりとかちょっといろいろありますけど、紙の辞書を引くよりもずっと便利なのでこれを使っています。

なお、一時期、American Heritage/Roget's Thesaurusの電子ブック版が販売されていました。私も見たことがあるのですが、いざ購入しようとした時には、カタログからも姿を消していました。たぶん、もう、手に入らないのではないかと思われます。

独自規格辞書

COBUILD ON CD-ROM

EPWINGや電子ブックは日本の規格ですから、海外の辞書は、基本的に独自規格のものしか手に入りません(例外は、上記のCODとシソーラス)。その中で私が気に入っているのはこの辞書です。

語義は一覧性がなくひとつずつしか出てこないので、語義を調べたいときには紙のLongmanについ手が伸びてしまいますが、このCOBUILD ON CD-ROMには、Word Bankという用例集がついているのが強みです。単語の使い方や他の単語とのつながりを見たい場合などに重宝します。

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