この記事は、『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版発行)に連載されたものを、編集部のご好意により許可を得て、著者の責任において転載しています。 |
『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版発行)2000年11月号 |
文科系のための科学講座薬理学編【11】臨床試験 |
非臨床試験にパスした新薬の候補は、人に投与されて医薬品としての有効性と安全性が試される。それを臨床試験といい、「試験の種類」からみると、臨床薬理試験、探索的試験、検証的試験、治療的使用に大別される。臨床試験を実施するプロセスは、第I相から第IV相までの「臨床開発の相」に分けられている。 第I相から第IV相までの開発は、この順序で逐次的に行われるが、開発の相とそこで実施される試験の種類は、かならずしも一対一に結び付くものではない。しかし基本的には、第I相では健康成人を対象とした臨床薬理試験、第II相では患者を対象にした探索的臨床試験が行われ、第III相では、より多くの患者を対象とした検証的臨床試験が行われる。ここまでの結果を厚生省・中央薬事審議会に提出して、承認審査をパスしたなら、新薬は世に出ることを許され、第IV相とよばれる市販後臨床試験(治療的使用)が開始される。 ●第I相では、主に臨床薬理試験が行われる。これは被験薬を初めて人に投与する試験であり、かならず健康成人を対象にして行われる。ただし抗がん剤の場合は、副作用の強い薬であるため、患者を対象として実施される。薬の安全性と薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)を確認することが、この試験の主な目的である。最初に行われる単回投与では、投与量を決めるための目安として動物での毒性試験の結果や、薬効薬理試験での最小有効量、類似薬の最小有効量、海外での治験などが参考にされ、それらに比べて非常に低い、数段階の用量で投与が行われる。次にその結果にもとづき1〜2用量での反復投与試験が行われる。 『臨床試験の一般指針』には、第I相で行う試験として「初期の安全性及び忍容性の推測」、「薬物動態」、「薬力学的な評価」、「初期の薬効評価」が挙げられている。 ●第II相で行われる代表的な試験は、探索的臨床試験である。効能・効果を期待する患者に被験薬を投与することにより、安全性と有効性を検討する。第II相では、第III相で行う試験の用法・用量を決定しなくてはならない。そのため第II相では、最初は少数例の患者に低用量を投与することから始めて、徐々に患者数を増やし、投与期間を長くする。たとえば最初に少数例の患者で単回投与試験を行い、次にそれにもとづいて臨床適用用量を推定し、より多くの患者に反復投与するパイロット試験が行われる。ここまでを前期第II相試験とし、後期第II相試験で用量設定試験を実施することにより至適用量幅を決定するというのが、従来の方法であったが、数年前に打ち出された新しい指針では、それだけでなく、開発の初期から後期までの各段階、相それぞれに適した方法で「用量−反応関係」を求めることが重視されている。 長期投与される薬については、後期第II相から第III相にかけて長期投与試験が実施される。 ●第III相は、主として検証的試験である。詳しくは後述するが、上記『指針』によると、「第III相に実施される試験は、意図した適応及び対象患者群においてその治験薬が安全で有効であるという第II相で蓄積された予備的な証拠を検証するためにデザインされる。このような試験は、承認のための適切な根拠となるデータを得ることを意図している。」 ●第IV相で行われる試験は、種類は様々であり、いずれも医薬品の承認後に開始される。『指針』によると、「必ずしも承認には必要でないと考えられるが、その医薬品の最適な使用法を明らかにする上で重要」な試験であり、「追加的な薬物相互作用試験、用量―反応試験、又は安全性試験、そして承認された適応疾患における使用を支持するための試験(例:死亡率/罹病率に係る試験、疫学試験)」などが一般的に行われる。 また、これとは別に「市販後調査」として、新医薬品については市販後(日本では6年間)の副作用報告が義務づけられている。市販後調査の結果によっては、いったん承認された薬の用法・用量が変更されたり、承認が取り消されたりすることもある。 臨床試験は、GCP(Good Clinical Practice;「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」)に従って実施される。日米EUの三極の代表者による「医薬品規制のハーモナイゼーション国際会議」(ICH)で得られた合意にもとづき、ICH-GCPが作成され、日本では1997年から、それをふまえた「新GCP」が施行されている。市販後調査は、GPMSP(Good Post-marketing Surveillance Practice;「医薬品の市販後調査の実施に関する基準」)に従って行われる。なお、医薬品の製造に関してはGMP(Good Manufacturing Practice;「医薬品の製造と品質管理に関する基準」)、非臨床試験に関してはGLP(Good Laboratory Practice;「非臨床の安全性試験に関する基準」)がある。 |
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