この記事は、『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版発行)に連載されたものを、編集部のご好意により許可を得て、著者の責任において転載しています。 |
『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版発行)1999年11月号 |
文科系のための科学講座環境科学編【11】汚染を測る(3) |
ガスクロマトグラフィー(GC)について説明したいのだが、そのためにはまず様々なクロマトグラフィーの話を順番にして行かなくてはならないだろう。
クロマトグラフィーとは、辞書的な定義によると、物質を管あるいは面に沿ってゆっくりと移動させることにより、その成分を分離・精製・分析することである。その原点は、20世紀初頭から行われ、葉緑素やカロチノイド(植物に含まれる色素)の研究で活躍したペーパークロマトグラフィーであった。ペーパークロマトグラフィーでは、細長いろ紙の端近くに色素の混合物を点状に染み込ませる。その端を溶媒に浸すと、溶媒がろ紙の中を進んで行くにつれて、色素が徐々に移動する。色素とろ紙との吸着の度合いに応じて、最初は混合していた色素が次第に別々のスポットとなって分離する。その結果は、微妙に色の違う色素のスポットが特性に応じて並んだパターンとなる。なぜこの技法が「色」を意味する「クロマト」という言葉で呼ばれたのかよくわかる。 やがて、ろ紙の代わりにシリカゲルなどの吸着剤の粉末をガラス板に塗りつけて乾かしたものを用いる方法が開発され、薄層クロマトグラフィー(TLC)と呼ばれている。 これらの方法では、各々のスポットの位置から、そこにある物質の種類がわかる。スポットの濃さ(あるいは無色のスポットを発色させた場合の色の濃さや、放射性物質で標識してあった場合の感光の強さ)から、物質の量がわかる。また、1個のスポットを切り出して溶かすことにより、純粋な成分を分離することができる。 カラムクロマトグラフィーは、粉末を平面に塗るのではなく、管に詰めて使用するものである。試料は、粉末を詰めた管(カラムという)の一端から注入される。カラムに一定の速度で液体を流しながら、流出する液体を検出器に通し、信号の強さを記録する。結果は、流れた液体の量(あるいは時間)を横軸にとり、縦軸に信号の強さを描いたグラフとなる。カラムから物質が流れ出ると、グラフにピークが出現する。 このようにクロマトグラフィーでは、固定相(平面に塗られた粉末や管に詰められた担体)と移動相(そこを流れる液体)との間で、物質がどのように分配されるかという特性(分配係数)にもとづいて分離が行われる。(さらに詳しく言うと、担体に固定相液体を含ませたものを固定相として使用する分配クロマトグラフィーと、固体の吸着剤を固定相として使用する吸着クロマトグラフィーがある。ほかにもイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなど、様々な技法がある。)同じカラムを同じ条件で使用した場合、試料を注入してから成分が検出されるまでにどれだけかかるかという値は、成分ごとに一定となり、これを保持値(保持容量と保持時間)という。 さて、ガスクロマトグラフィーでは、移動相は気体(キャリヤーガス)である。固定相には、充てんカラムを用いるものと、キャピラリーカラムを用いるものがある。充てんカラムは、内径3〜4mm、長さ10cm〜3mで、珪藻土など不活性の粉末が詰められている。キャピラリーカラムは、内径0.2mm、長さ50〜100m のステンレス鋼製や熔融石英製の管である。液体クロマトグラフィーと同様に、カラムに移動相を流しながら試料を注入し、成分が検出器に到達するまでの保持値を測定することにより、成分を分析する。 成分の検出には、いろいろな方式がある。熱伝導度検出器(TCD)、水素炎イオン化検出器(FID)、電子捕獲型検出器(ECD)、アルカリ熱イオン化検出器(FTD、AFID)、炎光光度検出器(FPD)、光イオン化検出器(PID)などが、用途と測定対象に応じて選ばれている。炭化水素による大気汚染の測定にはFID、悪臭物質の分析にはFPDが適している。大気中に含まれる微量のフロンを分析できる技術は、電子捕獲型検出器を用いたガスクロマトグラフィーのみである。 ガスクロマトグラフィーは、微量成分の測定に適し、多数の成分を一度に分析することができ、分離性能が高く、目的に応じて多彩な条件を設定できるという長所がある。 ガスクロマトグラフ-質量分析装置(GC-MS)というのは、ガスクロマトグラフィーと質量分析計(MS)を連結したものであり、GCの分離能とMSの解析能力を同時に活用する、きわめて強力な分析手段となっている。環境中の農薬の分析は、ほとんどがGCかGC-MS法によって行われている。 |
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