この記事は、『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版発行)に連載されたものを、編集部のご好意により許可を得て、著者の責任において転載しています。

『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版発行)1999年10月号

文科系のための科学講座

環境科学編

【10】

汚染を測る(2)

 吸光光度法とは、測りたい物質になんとかして色をつけて、その色の濃さを測ることで、物質の濃度を知る方法である。色の濃さを測るといっても、色そのものを肉眼で比較して測定するのは比色法といい、吸光光度法では、着色した物質による光の吸収を測定する。

 色のついている溶液は、特定の波長領域の光を吸収する。というか、特定の波長領域の光を吸収するから、色がついて見える。たとえば650 nm(ナノメートル)といった、可視光の中でも比較的長波長の光(つまり赤い光)をよく吸収する溶液は、それ以外の波長の光を多く通すので青く見える。

 また、可視光ではない紫外部や赤外部の光を吸収する物質もある。そういう場合には、肉眼に見える色は現れないが、原理は同じことであり、紫外吸光などもよく分析に用いられる。

 吸光を測るには、分光光度計または光電光度計という装置を使う。どちらも、ある一定の波長の光を溶液に当てて、透過した光の強さを電気的に測定する。測定の基準とする対照液を通った光の強さと、測定する溶液を通った光の強さを比較することで、溶液による光の吸収の程度(吸光度)を求める。

 光電光度計のほうは、一定の波長の光(単色光)を得るためにガラス製などのフィルターを用いる。分光光度計のほうは、光源からの光をモノクロメータという装置に通すことによって単色光を得る。モノクロメータの中には、プリズムが入っている場合と、回折格子が入っている場合がある。

 具体例として、水中に溶けている洗剤(陰イオン界面活性剤)の測定法をとりあげて説明したい。洗剤分子にメチレンブルー(青い陽イオン性の色素)を結合させ、それをクロロホルムで抽出し、吸光度を測る。器具・装置は、200 mlの分液漏斗2個と、分光光度計または光電光度計を使う。分液漏斗というのは、上に栓のできる口があり、下にコックのついた脚があるガラス容器である。水と有機溶媒のように、互いに混ざり合わない二種類の液体を入れて、二層に分かれたうちの一方だけを取り出すために使う。

 ここでは具体的なイメージをつかんでもらえるように、かなり細かいことも述べておくが、分析の手引きにできるほど正確ではないので、詳しくはJIS規格や専門の参考書を読んでいただきたい。

 まず、準備操作として、分液漏斗Aに水100 ml、アルカリ性四ほう酸ナトリウム溶液10 ml、メチレンブルー溶液5 mlを入れる。分液漏斗Bに水50 ml、アルカリ性四ほう酸ナトリウム溶液10 ml、メチレンブルー溶液5 mlを入れる。それぞれにクロロホルム10 mlを加えて激しく振り混ぜる。しばらく放置すると二層に分かれるので、クロロホルム層を捨てる。もう一度、クロロホルムを入れて捨てる操作を繰り返す。クロロホルム2〜3 mlを加えて穏やかに振り混ぜた後、放置してクロロホルム層を捨てる。クロロホルム層が無色になるまで繰り返す。(以上は、メチレンブルーや試薬に含まれている不純物を取り除くための操作である。本来、メチレンブルーはクロロホルム層に移行しないはずだが、不純物が残っている間は、そのせいでクロロホルム層が着色するので、それがなくなるまで抽出を繰り返すということだ。)分液漏斗Bの水層に、薄めた硫酸を加える。

 ここからが分析操作。分液漏斗Aの水層に試料を加える。クロロホルム10 mlを加えて、穏やかに振り混ぜて放置する。

 これでどうなったかというと、試料に含まれていた陰イオン界面活性剤が、水層の中でメチレンブルーと結合してから、有機溶媒であるクロロホルムの中へ抽出されたことにより、クロロホルム層は、陰イオン界面活性剤の量に応じて青く着色しているはずだ。しかしこの操作では、陰イオン界面活性剤以外にも数種類の物質が、メチレンブルーと一緒にクロロホルム層に移行する。分液漏斗Bは、それを取り除くための酸洗浄に使う。

 クロロホルム層を分液漏斗Bに移し入れる。穏やかに振り混ぜて放置し、クロロホルム層をフラスコに入れる。フラスコにクロロホルムを加えて、25 mlの標線に合わせる。

 こうして得られた液を、吸収セルに入れる。クロロホルムを対照液として、波長650 nm付近の吸光度を測定する。

 あらかじめ、数段階の濃度で、陰イオン界面活性剤の標準液を作っておく。これらを試料と同じように操作して、各濃度での吸光度を測定し、吸光度と濃度との対応関係を表すグラフ(検量線)を描いておく。試料の測定結果を検量線にあてはめれば、試料に含まれていた陰イオン界面活性剤の濃度がわかる。

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