この記事は、『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版発行)に連載されたものを、編集部のご好意により許可を得て、著者の責任において転載しています。 |
『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版発行)1999年7月号 |
文科系のための科学講座環境科学編【7】地球環境(4)その他 |
地球環境問題とは、国境によって区切られることのない地球全体の環境が悪化することであり、地球という「閉鎖系」の中で人間が活動することの影響であると言える。前回までに地球温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊について簡単に解説した。他にも次のような問題が重要視されている。
○森林破壊。この問題は、とくに「熱帯林の減少」として捉えられている。木材を輸出するために行われる無秩序な伐採や、大規模な農地開発によって、熱帯林は急速に失われている。焼畑耕作や薪炭の採取も、行き過ぎになると森林を減少させる。熱帯林が失われることにより、地域には燃料の不足や洪水の危険が生じるなど、住民の生活基盤に大きな変化が起こる。熱帯林には地球上の生物種の半数以上が生息していると言われ、これを保護することは生物多様性を保全するためにも重要である。森林が減少することによる地球の反射能(アルベド)の変化が、地球全体の気候にも影響を及ぼすと予測されている。 ○砂漠化。乾燥地帯で土壌の劣化・流出が起こり、植生が消失することを言う。砂漠化の原因としては、干ばつなどの自然的要因に加えて、土地の能力を超えて放牧や耕作を行うこと、薪炭材を過度に採取することなどが挙げられている。砂漠化した土地は生産力を失うため、農地とはならず、地域では食料生産が不足するようになり、貧困が加速する。その結果、地域によっては、周辺諸国への難民の流出が大きな問題になっている。砂漠化もまた、広大な面積にわたって地表の様相を変化させるため、気候への影響が考えられる。 ○野性生物種の減少。現在、人間の活動による生息地の破壊や乱獲などにより、一説によると毎年4万種の野生生物が絶滅していると言われている。大きな要因の一つは、熱帯林の減少である。森林伐採のような、生態系そのものを消失させる行為は、地域の生物を根こそぎ絶滅させる可能性がある。また、そうでなくても、生態系は多くの生物の複雑な関係によって成り立っているため、ある生物が絶滅することは、生態系全体のバランスに影響を及ぼし、環境を変化させるという心配がある。野生生物は、それ自体が地球の貴重な財産であるだけでなく、人間の生活を支える生物資源としても重要である。熱帯林の生物から未知の医薬品などの有用物質を探し出すこともできる。最近は、とくに遺伝子資源としての重要性が注目されている。地球上の生物の多様性の保全とその持続可能な利用を図ることを目的として、1992年に生物多様性条約が締結された。 ○海洋汚染。人間の活動が増大したことにより、広大な海にも深刻な汚染が生じている。陸地から汚染物質が流入するほか、船舶からの投棄や、タンカー事故による油の流出も海を汚している。海に流れ込んだ有害化学物質が、海洋生態系に影響を及ぼし、漁業を通じて人間の健康にも害を及ぼす。陸地から遠く離れた海面にも浮遊ゴミがみられ、とくに分解されないプラスチック類は、海獣や鳥類を死亡させたり、船舶の航行を妨げたりしている。栄養塩類による汚染は、海水を富栄養化させ、藻類などの異常繁殖による赤潮を引き起こす。細菌の繁殖によって水中の酸素が失われた嫌気的環境で生じる青潮という現象も増えている。 ○有害廃棄物の越境移動。先進国で出された産業廃棄物が、開発途上国へ不法に輸出されて、十分な処理を受けずに環境を汚染しているという問題である。1989年の「有害廃棄物 の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」によって規制されている。 ○開発途上国への環境協力。開発途上国でも、工業化・都市化・人口増加とともに、先進国がたどって来たのと同じ、環境破壊や公害の問題が発生している。しかし、多くの途上国では資金や技術が不足しているため、効果的な対策を推進することが難しい。先進国の協力により、地球全体の問題として取り組む必要がある。 オゾン層の破壊や地球温暖化は、先進国型の経済活動に起因する問題であると言える。一方、森林破壊や砂漠化などは、主として発展途上国で、貧困と人口増加により、環境への配慮が不足した結果として起こっている問題ではあるが、その背景には、やはり豊かな先進国での大量生産・大量消費があり、途上国の債務累積や、世界経済で途上国が不利をこうむっているという現状がある。そのような途上国での「貧困と環境破壊の悪循環」を避けるためにも、国際化してしまった環境問題に対しては、国際的な合意により、地球全体の利益を追い求める道をさぐることが必要とされている。 |
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