この「講座」は、@nifty「翻訳フォーラム・アドバンスメント館(FTRAN2)」の第13会議室「翻訳JOB応援会議室」にて連載されているものを、著作者の許可を得てウェブ上に転載したものです。 この「講座」内容に関連する質疑応答は、@nifty「翻訳フォーラム・アドバンスメント館(FTRAN2)」の第13会議室「翻訳JOB応援会議室」にて受け付けております。 講座内容についてのご質問がある方は、どうぞ、上記会議室においでください。 |
翻訳が関与する範囲では、一番の付加価値は翻訳だと私は思います。つまり、翻訳に特化するのが一番の高付加価値化だともいえるわけです。しかし一方で、翻訳の前後の部分まで取り込むという方向の高付加価値化を図っている翻訳者がいるのも事実です。
翻訳が行われる場合に可能性のある前処理・後処理などの関連処理には、以下のような事柄があり得ます。
このような翻訳の前後処理は、多くの場合、翻訳会社が社内で処理するか、翻訳会社からDTPなどの在宅事業者に外注する形式で行われます(翻訳と同時処理となる上書き翻訳は例外で、翻訳者が対応する必要がある)。
このような前後処理まで受注するケースは、以下のような場合が考えられます。
個人翻訳者として受注する場合、1.というケースはほとんどないでしょう。翻訳が一番の付加価値だからです。2.のケースは、翻訳会社でよく発生するケースです。クライアントの手間(翻訳とDTPを別の会社に発注する手間やDTPを社内の人間が行う手間)を省き、便利のいい翻訳会社だと思ってもらうことによって客先に食い込んでいくわけです。4.も同様に翻訳会社でよく発生するパターンです。クライアントと直接取り引きする場合には、個人翻訳者でも3.や4.というパターンがありえます。自分が翻訳会社と同じ立場にたつわけですから当然ですね。あと、個人翻訳者としては、3.は受注状況次第であり得るパターンでしょう。いずれの場合も、二足の草鞋では対応することは困難だと思います(上書き翻訳は例外)。
いずれにせよ、通常の翻訳以外の処理まで引き受けるのであれば、その分の対価はもらいましょう。
料金としては、最低限、その処理の相場料金はもらうべきです。まちがっても、「自分の本分は翻訳だしその付加価値が一番高いのだから、それ以外の部分は無料サービスとする」という考え方はしないことです。前後処理部分、たとえばDTPで生計を立てている人だっているんですから。そういう人から逆に、「DTPを発注してもらえるなら、翻訳は無料で行います」と言われたらどう思いますか?
なお相場というのは、一般的に取り引きされている料金ですから、自分にとって得な料金であるか損な料金であるかは場合によって異なります。効率を上げる工夫をしていて短時間ですませることができれば、自分にとって得になるかもしれません。逆に、翻訳を基準として損な条件ではやらないという考え方もあります。つまり、翻訳の時間単価以上となる料金でなければやらないわけです。このような強気のやり方をする場合には、言葉遣いなどに気をつけないと、その後敬遠されることも考えられます。
こういう「いつもの仕事」以外の部分は、その度ごとの交渉になります。交渉では、情報や技術を持っているほうが有利です。相場情報を知っていれば、自分を安売りすることがなくなります。技術があれば、相場料金でもおいしい話になることがあります。
私の場合で一番おいしい話となったのは、GUI(graphical user interface)の翻訳でした。このとき、英語のメニュー項目ではメニュー名の中に組み込まれているショートカットキーを、日本語では独立した形に書き換えてやる必要がありました。たとえば、「Save &As」というのを「名前を付けて保存(&A)」とやるわけです(ショートカットが英語のママでいいのかという問題はありますが、このジョブの仕様でしたので^^;)。処理自体は簡単なんですが、なんせ何万ヶ所もあるので大変な手間になります。そこで、翻訳会社の発注担当者と交渉し、私の翻訳料金にして3日分くらいの料金を翻訳料金に上乗せしてもらいました。このとき、現実の処理は「Save &As」→「Save As(&A)」としてから翻訳しました。つまり、この処理に対して3日分の料金をもらったわけですが、じつは、この処理はマクロ作成に要した約1時間しかかかっていないのです(タグ付き正規置換なら、もっと短時間でできたはずです。ファイル数が多いとはいえ、たぶん10〜20分というところでしょう)。また、GUIですから、あちこちで同じ項目が出てきます。このため、翻訳しなければならないところを抽出してソート、重複項目は削除して訳語をつけ、それをもとに一括置換をかける、という処理を複数のマクロを使って行ったところ、訳の半分以上は終わってしまいました。もちろん、まともに一つずつ訳していく場合の何分の一かの時間ですんでいます。こんなにおいしい話ばっかりだったらいいんですけどねぇ……
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