この「講座」は、@nifty「翻訳フォーラム・アドバンスメント館(FTRAN2)」の第13会議室「翻訳JOB応援会議室」にて連載されているものを、著作者の許可を得てウェブ上に転載したものです。

この「講座」内容に関連する質疑応答は、@nifty「翻訳フォーラム・アドバンスメント館(FTRAN2)」の第13会議室「翻訳JOB応援会議室」にて受け付けております。

講座内容についてのご質問がある方は、どうぞ、上記会議室においでください。

3.2 専門分野

二足の草鞋に限らず、専門分野というものは必要です。翻訳に必要な3本柱は、「原語能力」、「ターゲット言語の能力」、そして「専門知識」ですから。日本語で読んでも何が書いてあるのか理解できない分野の翻訳なんて不可能なことは、説明するまでもありませんよね。

特に二足の草鞋では、3.1節、「一足目との両立」でも書いたように、「専門分野を持ち、なるべくその分野の仕事に集中する」ということが大事だと思います。二足の草鞋で時間の制約が厳しいとなれば、新しい分野の仕事を調べながら仕事をするのは困難だからです。違いすぎる分野の仕事は勇気を持って断り、少しずつ分野を広げていくべきでしょう。

さて、私のように、もともと専門といえる分野がある人間が翻訳を始める場合は何も考える必要がないのですが、言葉側から翻訳者にアプローチする人などのように、特に専門といえるような分野はない場合、どのようにして専門分野を決めるか、が大きな問題となります。

一番いいのは、現在の仕事(一足目)でも取り扱っている分野でしょう。コンピューター関係の会社ならコンピューター、貿易会社なら貿易、機械を取り扱っているなら機械... 一足目で得た知識が翻訳でも生きますし、逆に翻訳で得た知識が一足目でも生きます。一足目の仕事中に翻訳関係の調べものや勉強をしていても、周りには仕事をしているように見えます。場合によっては、会社の人に疑問点を聞くことも可能でしょう(やりすぎると、二足の草鞋がバレるので要注意)。

次は、趣味の分野など、他の人よりも知識量の多い分野がいいでしょう。専門知識が多いのも強みですし、翻訳をしながら関連知識を学ぶ際にも、興味のある分野の方が頭に入りやすいモノです。好きこそものの上手なれ、ですね。

あとは、「翻訳という仕事」のために、専門分野を作る、という方法もあります。専門分野を持って生まれてくる人はいません。ある意味、みんな、自分の専門分野を築き上げて行くわけです。

「ある分野が専門分野である」と言えるかどうかは、その分野のかなり先端の内容まで、理解できるだけの知識と理解力を備えているかどうかで決まります。そして、ある分野の専門書を100冊も読みこなせば、翻訳者として「これは私の専門です」と胸を張って言えるだけの知識と理解力が身につくはずです。私のように、もともと専門分野を持っていた人間の場合でも、その専門分野をモノにした経緯は、専門書100冊読みこなしと大差ありません。結局、どれだけの情報をインプットし、咀嚼したかで専門分野のあるなしが決まるんだと思います。

とは言っても、最後の方法は、特に二足の草鞋にとっては、なかなかに厳しい方法でもあります。実践した人が現実にいるのは事実ですが……

でも、専門分野がなければ、安定的に受注することも、高品質な訳文を納めて高いレートをもらうことも難しくなります。さて、あなたはどうしますか?

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