この「講座」は、@nifty「翻訳フォーラム・アドバンスメント館(FTRAN2)」の第13会議室「翻訳JOB応援会議室」にて連載されているものを、著作者の許可を得てウェブ上に転載したものです。

この「講座」内容に関連する質疑応答は、@nifty「翻訳フォーラム・アドバンスメント館(FTRAN2)」の第13会議室「翻訳JOB応援会議室」にて受け付けております。

講座内容についてのご質問がある方は、どうぞ、上記会議室においでください。

2.1 会社との関係

一般論として、「二足の草鞋を快く許してくれる会社なんてない」と考えておくべきです。ですから、二足の草鞋を履くなら、会社には内緒でやって、万が一バレたらクビになっても仕方がない、とハラをくくる必要があると、私は思います。

「就業時間外ならいいじゃないか」と思うのは、二足を履きたいと考える我々のような人間の論理でしかなく、会社側からみれば、就業時間外の副業が本業に差し障る「可能性がある」というのが問題になります。寝不足で昼間の仕事の能率が落ちるとか、残業をいやがるようになるとか、ダメという理由は、いくらでもつけられます。

また、表だっては出てこないでしょうけど、二足の草鞋を履ける人間に対するねたみのようなものも考えておく必要があると思います。「給料以外にも稼げる人がいる一方、自分にはできない」となれば、機会があれば足を引っ張ろうとする人や、陰でアレコレいう人が出てくるのも、当然といえば当然のことです。

就業規則を読んでアレコレ解釈し、こう書いてあるから大丈夫だ、と屁理屈をこねてみても、実際に二足の草鞋がバレて問題になったら、ほとんど何の役にも立たないと思います。「副業OK」と明記していない限り、ダメという理屈は、どうにでもつくものです。そうなると、あとは、会社として二足の草鞋を奨励したいかどうかを基準に、恣意的に処分が決められることになるでしょう。

そういう処分を不服として裁判に訴えた場合、どういう結論が出るかは、法律素人の私には予想できません。でも、会社内の大勢が、「アイツはなんというヤツだ」と思うようになったら、もう、「勝負あった」なんじゃないでょうか。だって、その会社での自分の将来は見えたといっていいでしょうし、居心地もどうにも悪いでしょうから。

中には、会社公認という、非常にラッキーな人がいないわけではありません。しかし、それをねらって、「副業として翻訳をしてもいいでしょうか」と会社に聞くことはしないほうが無難です。上記のようにダメと言われる可能性が高いですし、いったん、「アイツは翻訳を副業にしたいと考えている」と知れてしまえば、内緒でやることも困難になってしまいます。

会社に内緒で二足の草鞋を履く……そのためには、どういう点に気をつける必要があるでしょうか。

1. 会社の仕事をしっかりやる

これ、とっても大事です(笑)

会社員を続けるつもりなら、当然、会社の仕事はしっかりやる必要がありますね。

逆に、そのうち会社員をやめて、翻訳専業になろうと考えているのなら、会社の仕事なんてどうでもいいですか? 私は、そうは思いません。

翻訳専業になろうと考えており、翻訳専業で食べていける実力が身についているのなら、とっくに、会社員なんか辞めてるんじゃないですか? それなのに会社員を続けているということは、「できたら」翻訳専業になりたいって思っている段階なわけでしょう。「できなかった」らどうするのですか? 会社員を続けるんじゃないですか? 人生の保険みたいなものです。会社の仕事もしっかりやりましょう。

それに、会社の仕事を一生懸命やっておくと、思わぬところで翻訳の仕事の役にたったりするものです。

たとえ補助職でも、自分がやっている仕事の背景なんかを勉強すれば、ビジネスのやり方とか、取り扱っている製品関連の知識なんかを吸収することができます。うまくすれば、将来、翻訳の専門分野にできるかも知れません。少なくとも、関連で出てきた時などに役に立つこと、請け合いです。また、勉強方法として、会社の人に聞く、という手が使えることも利点です。やる気のある、仕事熱心な社員だと思われることこそあれ、マイナスになる心配はありませんから、どんどん聞いてみてください。

2. 会社では、翻訳の仕事をしない

納期が迫っていて、会社の仕事が暇だと、つい、会社で翻訳の仕事をしたくなります。これは、ぜったいにダメです。大部屋形式の日本のオフィスでは、まず、バレてしまいます。

翻訳した文書を会社のレーザープリンターで打ち出す、というのも、ダメです。打ち出しにけっこうな時間がかかりますから、のぞき込む人がでてきます。裏返しの文書をひっくり返してみる人もいますよ(実話です。ただし、打ち出していたのは、会社の仕事の文書でしたけどね)。トラブったりすると、パソコンの印刷スプーラーやプリンターの内部メモリに文書が一部残っていたりすることもあり得ます。あとで他の人が操作した時に、ぽろっと変な文書が印刷されることだってあり得るわけです。

仮に、翻訳の副業が公認されていても、就業時間中に副業を行うことまで許されているはずがありません。就業時間中に会社で翻訳のお仕事をすることは、絶対に避けるべきことです。

独立の日が秒読みにはいると、回りの目も気にならなくなると思いますが、それでも、極力、就業時間中の副業は避けるべきです。どこで古巣とのビジネスが発生しないとも限らないわけですから、何にしても、円満退社できるように気をつけておいたほうがベターです。

3. 社内や友人に、翻訳に興味があることを「話さない」

仕事をしない、を一歩進めて、翻訳に興味があることも話さない方がベターです。翻訳雑誌を読んだり、通信教育の課題を解いたりするのも、会社ではやめておきましょう。せめて、お昼休みなどに近くの喫茶店にでも行ってやりましょう。

どっかで疑いを持たれると、それを解消するのはとても大変です。病気と一緒で、予防が一番です(^^)

4. 翻訳関係では、実名を極力出さない

実名を出していると、回り回って会社に知れないとも限りません。小さな会社なら可能性は低いかも知れませんが、大きな会社では、他にも翻訳に興味を持つ人がいるかも知れません。あなたの会社にも、少なくとも、今、これを読んでいる「あなた」1名は興味を持っている人がいるわけですから、他にいないと否定できる根拠はありませんよね。

実名を出すのは、相手も翻訳者であることがはっきり分かっている場合に限定した方がいいでしょう。

☆ニフティ関係

ニフティ関係だけでも、最低限、以下の点に注意すべきでしょう。

私は、友人などとのメールのやりとりや実名しか認めないフォーラムへの参加用に、別IDを用意しました。また、メインのID(翻訳フォーラムで使用しているID)でメールを出すときのために、一旦会員情報を公開に切り替えてからメールを送信し、また、非公開に切り替えるという作業を自動的に行うように、通信ソフトのスクリプトを書き換えてあります。これだと、私がメールを送信している間に会員情報をチェックされない限り、自分の実名を他人にチェックされることがありません。

この会員情報の公開、非公開の確認と変更には、「GO MEMBER」で飛ぶことができます。ニフティに普通に入会しただけだと、この会員情報は公開となっているはずです。

☆インターネットメール

インターネットメールも要注意です。

インストーラーの指示に従って普通にメールソフトを導入すると、送信元に自分の名前が出るように設定されるはずです。あと、アカウント自体、名前にちなんだものにする人も多いですよね。

インターネットメールも、仮名用のアカウントを別に取得し、メーラーの設定を変更すれば、実名を出さずにメールのやりとりをすることは可能です。ただ、インターネットでは、名前を出すのが普通のやり方なので、あまりお勧めできません。

一番は、翻訳関係では、仕事のやりとり以外、インターネットメールを発信しないことでしょうね。仕事をやりとりするようになった相手には、いずれにせよ、自分の実名を知らせる必要があるわけですから。

そうそう、会社でもらったアカウントや社内システムから翻訳関係のやりとりをしないでくださいね。会社によっては、社員のメールを検閲できるシステムを持っていることがありますから。プライバシー保護との関係で、法律的な議論のあるシステムですが、「会社が割り当て、会社が費用を持っている限り、とうぜん仕事にのみ使用されるべきものであり、仕事内容(のはず)であれば、会社に閲覧する権利がある」という考え方もあるらしいです。

5. 確定申告にご注意!

翻訳による副収入が年間20万円を超えると、確定申告をする必要があります。この申告時に、住民税の徴収方法を「普通徴収」と指定しておかないといけません。

何も指定しないと、いわゆる「特別徴収」という形態になり、翻訳収入も含めて計算した住民税の請求が会社に行きます。仮に、会社の給与が500万、翻訳収入が50万としても、控除などを考えれば、住民税は、おそらく15%増しくらいになるのではないでしょうか。ともかく、同じ給与水準の社員と比較して、明らかに違う値になります。

そんなところまで、細かく見ないだろうとは思いますが、見ないという保証もないわけです。それなら、危ない橋は渡らないが一番ですね。

詳しくは、また後で確定申告の項で説明します。

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